暗号通貨の世界はセキュリティ上の懸念や取引相手へのリスク管理が甘いことで広く知られています。暗号通貨市場は比較的新しい市場ですがこれまでに詐欺、ホワイトカラー犯罪、様々な詐欺、その他の悪意のある行為に関連した壊滅的な事故を多数経験しています。その主な理由としては暗号通貨トランザクションは追跡がなく完全に匿名であるため、悪意のある攻撃者が詐欺行為を行いやすいと考えられています。
暗号通貨取引に関連する金融サービスはこの残念な現状に長い間悩まされてきましたが、最近の暗号通貨トラベルルールであるFATFの導入により、ついにその流れが変わろうとしています。以下では、トラベルルールの性質とそれがどのように暗号通貨の世界に影響していくのかを学んでいきましょう。
重要なポイント
- 2019年にFTAFによって導入されたこのトラベルルールは、現在世界中での施行が開始されています。
- 暗号通貨関連企業はKYC手順を実施し、顧客の活動を監視することがトラベルルールで義務付けられています。
- 暗号通貨のトラベルルールは暗号通貨市場で頻繁に行われるマネーロンダリングやその他の重大な犯罪と戦うために作られました。
暗号通貨のトラベルルールを理解する
2019年下半期に金融活動作業部会 (FATF) によってこのトラベルルールが導入された後は、これが暗号通貨業界のあらゆる側面に大きな影響を与えていきました。これは米国の金融犯罪執行ネットワークによって導入された同様の法律の精神的な後継者であると考えられており、このトラベルルールは企業に堅牢な顧客確認プロトコルと安全策の採用の強制という法定規則を反映しています。暗号資産サービスプロバイダーとみなされる企業 (CASPやVASP) は所定の期限内にこれらの規制に準拠する必要があります。
しかしFATFは企業にスムーズな移行を行うための時間を与えているため、2023年の時点でトラベルルールはまだ完全には課されていません。結局のところ、トラベルルールでは暗号通貨関連企業に顧客の身元情報と個人情報を監視することが義務付けられていますが、ほとんどリモートで稼働している暗号通貨サービスプロバイダーでさえ実装してはいませんでした。
その不便さにもかかわらず、トラベルルールは暗号市場全体のセキュリティレベルを向上させることで暗号資産に対する詐欺、詐欺、マネーロンダリングなどを最小限に抑えることを目的としています。各金融機関が顧客の活動に責任を負うことで業界全体に当事者意識を生み出し、最終的には悪意のある個人が暗号通貨を目的とした違法行為を実行しにくいと感じさせることを目的としています。
トラベルルールの重要な要素
以下では、旅行および金融分野におけるトラベルルールの適用とトラベルルールを進めてきた中心人物および組織に焦点を当てていきましょう。
金融活動作業部会 (FATF)
1989年に設立された“FATF”は現在世界中でマネーロンダリング犯罪と戦う最大当局の1つです。FATFは国際的なマネーロンダリングに対する最後の防衛機関であると共に、KYCと透明性の規則を施行しています。 FATFのKYC要件は厳格ですが基本的には公平であるため、企業は重要な顧客に関する基本情報のみを開示しながら自由に運営することができます。
2019年に提案された“FATF 16”要件が現在の“トラベルルール”として知られるようになり、現在では法定通貨の世界を超えて暗号通貨業界にも影響を及ぼしています。 基本の原則はほぼ同じですが、トラベルルールは法定通貨と比較するとわずかに厳格であるように思います。これは暗号通貨が持つ独特な性質と、暗号通貨を悪用した犯罪者を逮捕することがますます困難になっているためです。
仮想資産サービスプロバイダー (VASP)
VASPは“FATF 16”F要件によって強制されるトラベルルールの規則対象であり、VASPはFATFによって暗号取引または管理サービスを提供する事業体として特徴付けられます。したがって、トラベルルールはブローカー、マーケットメーカー、投資ファンド、その他の関連機関などの取引所プラットフォームに適用されます。VASPとみなされる企業はFATFが提案するガイドラインに従って顧客に関する情報を収集しなければなりません。
しかし、どんな規制にも考慮すべき特定の値があります。全ての顧客が情報開示を要求するほど重要なわけではないことから、VASPは通常の顧客からは限られた情報のみを取得して重要な顧客からは包括的な情報を取得する必要があります。ここでの包括的な情報とは、顧客のIDを確認するための実際の住所と居住地などの情報がを指しています。
トラベルルールは金融機関にどのような影響を与えますか?
暗号通貨のトラベルルールの導入はブロックチェーンの世界において大きな発表となりました。トラベルルールは当初からこの分野全体に大きな影響を与え、市場参加者の目にはこれからの多くの可能性を示唆していたと言われています。さらに一部の人にとってトラベルルールはこの業界の終焉であると考えられており、反対にトラベルルールは暗号通貨の世界を商業にとって実行可能で安全な場所にするための必要な手段だと考える人もいます。
マネーロンダリング対策への積極的なアプローチ
トラベルルールの最も明白なメリットはマネーロンダリング犯罪に対する積極的なアプローチ方法として使用される点です。暗号通貨におけるAMモニタリングの実践は2010年代のほとんどにおいて残されることが多く望まれていましたが、ピアツーピアトランザクションの完全な分散化と匿名性によってAML詐欺の検出はほとんどありませんでした。
結局のところ、完全な匿名性とプライバシーが重要なトランザクションを監視し続けることはほぼ不可能なのです。ブロックチェーンにおいて分散化は非常に重要ですが、マネーロンダリング行為によって数十億ドルの損害が発生している現状を考慮すれば、このような犯罪をきっぱりと防止することが最も重要になってくるのではないでしょうか。
トラベルルールでは全てのVASPに対して潜在的で疑わしい顧客に対して厳密に監視されたベースを作成することが求められることから、このガイドラインでは重要な顧客やその他の分類をチェックするために必要なしきい値が指定されています。そのため、トラベルルールは暗号通貨会社とその顧客にとってより安全な環境を生み出してくれる可能性があります。
暗号通貨と法定通貨の間にある簡素化された橋のような存在
暗号通貨におけるトラベルルールの遵守には、業界全体をより良い方向に変える可能性がある二次的メリットも潜んでいます。暗号通貨と法定通貨の両者の繋がりは非常に薄く超えなければならない多くの障害があることから、多くの投資家は両者の分野からどれか1つを選択してそれに専念する事で混乱を少しでも減らそうとします。
上記の主な理由としては、法定通貨を扱う投資家が暗号通貨取引を信頼していないことが挙げられます。AMLの実践やガイドラインが存在しないのはほとんどの仮想通貨投資家にとって大きなマイナス面ですが、トラベルルールによって暗号通貨規制がより均一化され標準化されるにつれて現状は劇的に変わる可能性があります。したがって、これまで懐疑的だった多くの投資家が暗号通貨に手を出してみようという意欲を抱くようになるかもしれないのです。
さらに、トラベルルールメッセージングプロトコルによってVASPから転送される顧客データは完全に機密となることで顧客のプライバシーが脅かされることはなくなることから、上記で概説した要素を組み合わせることで暗号通貨業界の透明性と合法性に多大な影響を及ぼし、暗号通貨の保有者やトレーダーに大きな安心感と快適さを与えることができるのです。
トラベルルールはブロックチェーンの存在意義を損なうものですか?
FATFのトラベルルールは暗号通貨業界にとって非常に前向きな影響を及ぼしますが、暗号通貨コミュニティの間ではある1つの大きな懸念として同業界全体の最大の魅力と考えられているブロックチェーンの分散化の側面に反すると多くの人が主張しています。この意見は技術的に見れば真実ですが、実際にほとんどの暗号通貨専門家はトラベルルールを市場における“必要悪”と見なしているのです。
暗号通貨の分野では詐欺、デジタル窃盗、ホワイトカラー犯罪などの事件があまりにも多く発生していることから、もうこれ以上それらの問題を無視することはできません。匿名性という素晴らしい側面が様々な種類の犯罪を促進するために不当に利用されていることは非常に痛ましいことであることから、結果的に同業界の安全な成長と発展を確保するにはトラベルルールが必要なのです。
まとめ
トラベルルールは同市場において物議を醸していると多くの人が考えていますが、暗号通貨規制の現状においてはこの大規模な変化が必要であることは誰が見ても明らかです。最近のFTXの崩壊、数多くのサイバーセキュリティ侵害、マネーロンダリング事件、その他多くの犯罪によって同市場には適切な規制が欠如していることが明らかになったことから、暗号通貨市場は国民の信頼を取り戻すためにも新たな規則を組み込む必要があるのです。トラベルルールは正しい方向への優れた一歩であると考えられていますが、個人的には制限ではなく権限を与えるメカニズムを生み出す為のさらなる改良が必要であると私は考えます。
よくある質問
暗号通貨のトラベルルールとは何ですか?
暗号通貨のトラベルルールとはマネーロンダリングやその他の暗号通貨に関連した犯罪と闘うために世界的に導入された規制であり、この規制によって各企業には顧客を注意深く監視しつつ個人情報を取得して正当性を検証する必要が生じます。
“VASP”とは何ですか?
VASPはトラベルルールの対象であり、これに含まれる組織は顧客の個人データを取得してトラベルルールのデータを当局に転送する必要があります。このプロセス自体は機密で行われることから、個人投資家の自由を危険にさらすものではありません。
“FATF KYC”要件とは何ですか?
KYC要件によってVASPに関連した企業は通常の顧客からは一般的な顧客情報を取得し、重要な暗号通貨の送金を行う重要な顧客からはより包括的なデータを取得することが義務付けられています。