2000年代初頭に起きたFTXの破綻によるエンロン事件によって大きな爆弾が暗号通貨業界に投下されました。この事件によって暗号通貨市場は大きな変化を余儀なくされ、さらに個人や企業が持っていた同業界への認識さえも大きく変えてしまいました。
この事件は非常に悲劇的なことではありますが、FTXでのケーススタディとしては非常に多くの情報量と現在の暗号通貨情勢におけるいくつかの根本的な問題を私たちに提供してくれています。
FTXから学べる点としては適切な勤勉プロセスの欠如、規制における失敗、管理不足などの現代の暗号通貨業界も抱えるような典型的な要因も含まれています。以下ではこの巨大企業がどのようにして天から地へと陥落していったのか、そして私たちがそこから何を学べる点を学んでいきましょう。
重要なポイント
- FTXの破綻は暗号通貨の歴史の中で最も魅力的かつ恐ろしい出来事の1つであり、それは同市場が抱えている数多くの限界や欠陥を明らかにしています。
- FTXの破綻は主に緩い規制、FTXの創設者に対する盲目的な信頼、ホワイトカラー犯罪などのいくつかの要因によって引き起こされました。
- この出来事から私たちが学べる教訓としては、暗号通貨業界が依然として市場操作の影響を非常に受けやすいと言う点です。
未曾有のFTXの破綻の裏側にあるストーリー
FTXでのケーススタディと聞けば少し魅力的のように聞こえますが、同事件は過去に目撃された金融詐欺や注目を集めた破綻という壮大な出来事として広く知られています。全ての始まりはFTXのCEOであったサム・バンクマン=フリード (一般的にはSBFと呼ばれる) の輝かしい出世であり、彼は表舞台に出てきてすぐに暗号通貨業界最大のインフルエンサーの1人としての地位を確立しました。2017年にSBFは急成長しているクオンツ取引会社の1つであるAlameda Researchを発掘すると共に大成功を収めることで、仮想通貨の冬季期間であった2017年の暗号通貨業界の救世主としての地位を確固たるものにしたのです。
翌年の2018年はブロックチェーンにおいては非常に奇妙な年であり、最近の暗号通貨価格の暴落は業界全体が方向転換して成熟する為のプロセスを必要としていることを示唆しています。しかし当時の市場は最初の仮想通貨の冬季に訪れた壊滅的な結果を回避する方法を何も持ち合わせていなかった事から、同業界の未来はこの道を先導する数名の人物へと委ねられました。
SBFは暗号世界を再活性化するために選ばれたリーダーの1人となり、2019年には独自の取引プラットフォームであるFTXを立ち上げます。それからFTXは驚異的なスピードで成長していき、立ち上げからわずか2年程で全ての暗号通貨取引プラットフォームにおいて4位になるまで急成長していくのでした。
当時のSBFには完璧な評判と大きな話題性があったことから、FTXはシリコンバレーでもかなりの投資額を集めることができました。多くの有名人やセレブがFTXを盛大に宣伝していましたが、最初に風向きが変わったのはSBFがFTXとAlameda Researchの両社で過半数のシェアを有していたと発覚した時でした。なぜなら、この2社が掲げる目標は本質的には利益相反関係にあったからです。
FTXの破綻とマネーロンダリング疑惑
それから2022年11月2日まで上記の2社への批判は僅かなものでしたが、同日にCoindeskから最初の申し立てが提起されました。Coindeskによる非公開の調査結果によれば、SBFの仮想通貨ヘッジファンドであるAlameda Researchの貸借対照表にはFTX取引所プラットフォームで取引を行うために使用されるネイティブトークンであるFTTトークンが140億ドル以上も含まれていたそうです。
この事実は経済的な観点から見ても非常に重大なものであり、これはSBFと彼のチームが単にAlameda Researchの資本を使用してネイティブトークンを購入した結果としてFTXが一気に上昇した事実を告げています。これがもし事実であるのならば、この行為は利益相反の典型的かつ公開市場での資産価格を操作するホワイトカラー犯罪となり得るのです。さらには、SBFと彼のチームメンバーによるマネーロンダリング疑惑も上がりました。
2022年に突如としてSBFがこれまで大きく期待されていたような暗号通貨の救世主ではない可能性があることに全世界が驚かされました。そこからは様々な追加証拠やリークが流れ始め、結果的に人々はすぐにFTXとAlameda Researchが不正行為を行っていると知らされるのでした。
FTXの終わりの始まり
SBFと彼のチームはこれらの申し立てを反証するための証拠を提出することができず、さらにはAlamedaの貸借対照表に100億ドル相当およびその他の資産が含まれていると強く主張しました。しかしこうなれば信頼が非常に重要となる暗号通貨取引所としては、ここからFTXが以前の様な人気を取り戻して復活することはほぼ不可能であることは誰が見ても明らかでした。
多くの投資家やトレーダーがFTXから自らの資金を引き出し始めると、1取引日あたり最大40億ドルもの前例のない取引量が発生し、FTXは既存の預金のほとんどを返済する必要に迫られて同システムに大きな打撃を受けました。そこでFTXの競合企業の1つであるBinanceがFTXプラットフォームを救済する為に過半数の所有者になる決定を発表したが、その発表はすぐに取り消されることになりました。これはBinanceがFTXの非公開財務データに重大な誤りを発見したと受け取られた事で、FTXへのさらなる不信感を招く結果となりました。
そしてついにFTXには仮想通貨取引所の預金の半分もカバーする資金がないことが世界に公表されると、SBFに対する刑事告発も急速に進められていきました。2023年にSBFは詐欺や利益相反を含むいくつかのホワイトカラー犯罪における有罪判決を受け、現在のFTXは世間から失敗した仮想通貨取引所として認識されています。
FTXの破綻から私たちが学ぶべき教訓
FTXのケーススタディは非常にシンプルなものであり、つまり世間の信頼を操作して誇大広告を行う事で一企業の成長を大きく促進する典型的なケースとなっています。暗号通貨の将来を改善するために、以下では私たちがこの件から学ぶべきいくつかの重要な教訓を見ていきましょう。
典型的なコーポレートガバナンスの破綻
規制監督の不備やデューデリジェンスプロセスの欠如については多くのことが言われていますが、FTXが破綻した主な理由は社内のガバナンスが上手く機能していなかった点が挙げられます。現在ではホワイトカラー犯罪の可能性を完全に根絶することは事実上不可能であり、各企業の創設者は公平性と透明性を保たなければなりません。これまでにSBFのような多くの人物が公的人格を利用して人々の支持や信頼を獲得するのを目撃してきましたが、彼らの大半は心の中では捕まらないことを望んでいる詐欺師である場合が多いです。
このような場合には会社のメンバーと役員が名乗り出て企業の誠実さを正す必要があります。規制上の欠陥やその他の要因について議論することはできますが、最も広範な防衛手段としては公正な心を持った責任感のある個人の行動です。EnronやMadoffのような大規模な企業詐欺のほとんどは内部告発者による告発によって不正行為が明らかになったことから、一人一人がこの様な意識を持つことで不正行為を防ぐことが出来るのです。必ず不正行為や詐欺師は暴かれる運命にあるのです!
悪意のある個人は常に悪気もなくホワイトカラー犯罪を犯す傾向があることから、社内の人間には声を挙げて犯罪を世間に報告する責任があります。現在の金融業界はこの傾向が広く広まったことでよりクリーンになっていますが、中堅の従業員であっても一企業を大きく変えることが出来る事実をCEOは知っておくべきでしょう。
暗号通貨業界における必須規制
ここではより技術的な話になりますが、FTXの破綻は同市場にける完全に欠如した投資家の勤勉さと脆弱な規制措置と言う仮想通貨業界における2つの重大な欠陥をより明確にしました。2023年に証券取引委員会 (SEC) を含む様々な規制機関は暗号分野において規制上の制限を11まで変更したことから、これからの暗号通貨取引所への完全な透明性の確保から重要な財務データの定期的な開示などが義務付けられました。
現在ではほとんどの暗号通貨取引プラットフォームにおいてあらゆる引き出しに対応できるだけの十分な準備金があることを証明する義務があり、さらには重要となる兄弟会社やパートナーとの利益相反がない証明を行う必要もあります。つまり、現在の暗号通貨取引所は例外なくそれら全てを簡潔に証明する為の信頼できる財務情報を提供する必要があります。これまでの同業界は固有の匿名性があることで時に情報不足と見られる場合がありますが、規制当局は法律や規制を整えることで暗号通貨ユーザーにとって安全な環境を確立しようと努めているのです。
これらの提案された規制が現在の暗号通貨の状況を十分に変えることができるかどうかはまだ分かりませんが、これらが同市場が進むべき正しい方向への一歩であることは間違いないでしょう。しかし、新しい法律によって同業界に新たな問題や過剰規制が生じる場合には、長期的に見るとユーザーの自由が制限されてしまうかもしれません。
繰り返される暗号通貨業界の歴史
このような完全なる敗北は金融業界では珍しい現象のように思えるかもしれませんが実際はそうではなく、これまでにもEnronやMadoffなどの企業が機能していないガバナンスや不正行為などの報告が出されています。
しかし、従来の金融業界はこのような壮絶な失敗から教訓を学びました。Enronの場合では表面レベルのチェックが不十分であることが明らかになったことから、金融業界はそこから大企業を信頼して評価するアプローチへと手段を変えていきました。
もちろんFTXが暗号通貨に与える影響はEnronと同様になった可能性があり、市場全体がこれからの成長を妨げる根本的な問題を認識せざるを得ない転換期となったかもしれません。非常に惜しまれる点としてはEnronの内部不正行為とFTXの不正行為がそれほど変わらなかったという点であり、どちらの破綻も業界の成長が著しく厄介な内部情報の開示が避けられると経営陣が信じていたことが原因で発覚した事件でした。このようにして歴史は再び繰り返されていくのでしょう。
つまり現在の暗号通貨業界ができる唯一の対策は企業管理および新しいプロジェクトを評価するアプローチを全面的に見直すことであり、もはや以前のような盲目的な信頼や空虚な誇大宣伝は市場全体を大暴落に導き壊滅状態に陥らせる可能性が高いことからこの分野では通用しなくなっています。
まとめ
FTXでのケーススタディは本質的に見れば非常にシンプルですが、そこには多数の技術的要素が含まれるために少し複雑になっていきます。暗号通貨史上最大の破綻の1つはシステムの整合性の侵害、不適切な経営上の意思決定、不十分な規制や盲目的な信頼などの数多くの要因が重なって引き起こったのです。
今の私たちが今できる唯一のことは、FTXの破綻から何かを学ぶことで今後同じことが起こらないよう最善を尽くすことです。同業界はまだ非常に脆弱でこれから市場を盛り上げていくには聡明な頭脳と知識が必要になります。全ての暗号通貨を扱う投資家は自分が誰をなぜサポートしているのかを常に念頭に置く必要があります。